【相談事例2】

2-2-01
私は30代の女性です。小学生と保育園に通う子供がいます。
私の父(69)が、子供たちが大学に行くときは、入学費用は出すといってくれています。
しかし、子供たちが大学に行く頃は80代になるのでちょっと心配です。

先日、私の友人が言っていたのですが、友人の母が認知症になり、成年後見人をつけたそうです。
しかし、成年後見人をつけたら、弁護士さんが成年後見人になり、お母さんのお金が何かと使いづらくなったと言っていました。
友人の子が大学に入ったので入学資金を出してもらおうとしたら、「それはダメだ」と成年後見人の弁護士さんから言われたそうです。
私の父も、最近物忘れが多くなってきたように感じます。
子供の入学費用を出してもらえるのでしょうか?
子供たちが大学に行く頃は、父は80代になるので心配です。
何かいい方法はないでしょうか?

(1) お父さんの口座からお金がおろせない?

最近、銀行では本人確認が厳しくなっていますよね。
親の口座から大きなお金(例えば100万円とか)をおろそうとすると「ご本人を連れてきてください」と言われます。
そこで「本人(親)は認知症です」というと、窓口の担当者から「本人でないとお金はおろせません。
成年後見人をつけてください」と言われてしまいます。

この成年後見人とは何なのでしょうか?

(2) 成年後見人とは

認知症や知的障がいなどで、判断能力が十分でない方は、預金の出し入れや、施設などの契約手続などが、自分ではできません。
成年後見人は、その判断能力が十分でない方に代わって、これらの手続を代行する人です。
一言で言えば、「代わりにハンコを押す人」と言えます。
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私も何人かの成年後見人をしていますが、主にすることといえば、施設など料金の支払い、介護保険などの役所関係の手続きや、施設との契約です。
その人に代わり、私がその手続の内容を判断して、書類にハンコを押しています。
認知症になった人のための、「保護者」のようなイメージです。

ですから、今回の事例の相談者も、万一お父さんが認知症になったら、お父さんの口座から、お子さんの入学費用など大きなお金をおろそうとすると、「成年後見人をたててください」と言われる可能性があります。

では、なぜ、相談者のご友人は、成年後見人をつけても、入学費用を出してもらえなかったのでしょうか?

(3) 孫のためにつかえない?

成年後見は、「本人を保護・支援」(法務省ホームページより)する制度です。
本人とは、認知症や、知的障がいなどで判断力がない人のことです。
お父さんが認知症になって、成年後見人をつけると、

本人=お父さん

ということになります。

成年後見は、本人を保護・支援する制度ですが、本人の家族を保護・支援する制度ではありません
お父さんが、家族の生活のためにいろいろお金を出していたら大変です。
お父さんのためなら、お金を使うことが許されます。
入院費用、施設の費用、お父さんのためにするバリアフリーのリフォームなどなど。

しかし、お父さんの「家族」のためだと、とたんにお金を使うのが難しくなります。
お母さんの入院費用、お母さんの施設の費用、子供が介護のために一緒に住むから、家の増築などなど。
お孫さんの入学費用もとたんに出すのが難しくなるのです。

これって、法律の不備だと思います。

2-2-03

元気なうちは、自分の意思で孫の入学費用を出せますが、認知症になると、原則自分のためしか、お金は出せません。
お父さんが亡くなれば、お父さんの財産は相続されるので、相続した人の意思(事例では相談者)で、入学資金を出せます。
このように、成年後見の制度は、融通が利かず、とても不便なことがあります。
現状そのような制度になっているので、成年後見では家族のためにお金を出すことが難しくなってしまいます。お父さんが元気なときに「孫のためにお金は出す」と言っていても、です。

私の所に来るお客さんも、「成年後見にしたくない」といって相談に来られる方が、いらっしゃいます。

(4) 成年後見人は誰がなるか

成年後見人になるのに資格は必要ありません。
ですから、子供など親族でなれる人がいれば、親族がなるのが一番いいと思います。
しかし親族が成年後見人になるのは少数派です。
3件に1件くらいです。
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なぜか?

右図のような家族で、お父さんが認知症になって、長女がお父さんの成年後見人になろうとします。
成年後見人になると、お父さんの通帳など全ての財産は長女が管理することになります。
家族間のトラブルを防ぐために、家庭裁判所は、長女が成年後見人になることについて、お母さんと長男の同意書を要求します。
もし、家族の誰か1人からでも同意書が出されないと、「この家族には何らかのトラブルがあるかも」と家庭裁判所は考え、弁護士や司法書士などの第三者を成年後見人に選んでしまうのです。
このように、成年後見人は誰がなるかは家庭裁判所が決めます。何らかのトラブルがある場合や近くに身内がいない場合等は、第三者が成年後見人に選ばれることはよくあります。
弁護士や司法書士などの「法律に詳しい人」が成年後見人なると、法律どおりの運用をして、融通がきかなくなります。

しかも、弁護士や司法書士が成年後見人になると、もう一つ大変なことがあります。それは費用です。

(5) 費用は?(第三者が後見人になった場合)

弁護士や司法書士も仕事として、成年後見人になります。
そうすると費用が発生します。
この費用は家庭裁判所が決めるので、弁護士や司法書士が勝手に決めることはできません。
でも、だいたい相場が有ります。

ザックリ言って、月3万円くらいです。
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年にすると36万円。
財産の多い少ないで、この費用は多少前後しますが、おおよそこのくらいかかると思ってください。
つまり、弁護士や司法書士が成年後見人になると、孫のための入学資金は出せなくなり、さらに費用も取られて、踏んだり蹴ったりの状態です。
ですから、実際、成年後見制度は使いづらく、あまり普及は進んでいません。
認知症で、成年後見人が必要な人は500万人程度いるといわれていますが、
実際の導入件数は約18万5000人(平成26年末)です。
わずか4%程度しか利用されていない計算です。
ここまで利用されていないのは、使いづらい制度であることも原因の一つだと思います。

(6) 家族信託なら解決できる!

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家族信託なら、お父さんが認知症になってもお孫さんの入学資金が出せます。
お父さんが元気なうちに、娘さんである相談者にお金を信託します。
そのようにしておけば、孫が大学に行くとき、信託されたお金からお孫さんの入学資金を出すことができます。
このとき、お父さんが認知症になっていても大丈夫です。
お父さんに成年後見人は必要ありません。
もし、成年後見人がついていたとしても、信託したお金は娘さんが管理しますので、孫のために入学資金を出すことができます。
万一、お父さんが亡くなられても、相続財産にはなりませんので、トラブルの心配もありません。

このように、家族信託をすることにより、お父さんのお気持ちを実現することができるのです。



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