【相談事例9】

2-9-01
私の家系は先祖代々受け継いだ土地があります。
私も先代からその土地を受け継いできました。
今後もそのように受け継いで欲しいと想っております。
そのために、遺言を書こうと思います。
その土地を長男、更にその次も長男に受け継いで欲しいです。
もちろん長女にもそれなりの財産を渡すつもりです。
ところが遺言では、自分の次の代しか決められないと聞きました。
私の次もその次も、代々受け継いだ土地を守って欲しいと想います。
何か良い方法はないでしょうか?

(1) 遺言は最低限必要

先祖から受け継いだ土地や財産、事業がある場合、それが次の代にも更にその次の代にも確実に受け継いで欲しいと願うでしょう。

次の代に確実に渡す。

それが財産や事業を受け継いだ自分の責任だと。

そのために、遺言を書くのは重要です。
むしろこのような人は遺言を書くのは必須とも言えます。
書こうと思えば遺言は5分で書くことができます。

このたった5分で書ける遺言がないために大変苦労された人もたくさんいらっしゃいます。

(2) 遺言がなくてすごく苦労された例

2-9-02
相談者の女性はお父さんを亡くされました。
お父さんは再婚で前妻との間に子供がいます。

お父さんの財産の相続手続きをするには誰のハンコがいるでしょうか?

お父さんには前妻との間に子供がいるので、相続手続きにはその人のハンコが必要です。
その人とは会ったことも話したこともないという相談を良く受けます。
一度も話したことがない人に対して、次のようなことをお願いなければいけません。

「あなたのお父さんが亡くなられたので、相続手続きのために、書類に実印で押印と印鑑証明書をください」

もちろん、財産をどのように分けるか合意が必要ですが、会ったこともない人にこのような重大なお話をしなければいけないのは残された人にとって、とても大きな不安になります。
もし、お父さんが遺言を残していたらそのような不安はしなくて済みました。
遺言は、書き方さえ知っていればたった5分で書くこともできます。

(3) 5分で遺言を書く方法

遺言は大きく分けて、自分の手書きで書く方法と、公証役場で作る方法の2つがあります。
法律上の効果は同じです。

手書きで書く遺言なら5分で書けます。

この5分で書いた遺言があるかないかで、遺された家族がすごく苦労するかしないかが決まります。
であれば、遺された家族のために簡単でもいいので遺言を作っておくべきでしょう。

2-9-03
手書きの遺言の法律上のポイントは、4つです。

  • 全部手書きで書く(ワープロは不可)
  • 日付
  • 名前
  • ハンコ(認め印でOK)

紙は、何でもOKです。
封筒に入れる必要もありません。
文案は右のようなもので大丈夫です。
こんな簡単な遺言でもあるとないとでは全く違います。

ただ一点だけ。
家族に見つけてもらう必要があります。
ですから、遺言を書いたら、家族に遺言を書いたことと
どこにしまってあるかはお伝えください。

  • 再婚してそれぞれに子供がいる人
  • 子供がいない夫婦

などは、特に相続関係が複雑になりますので、遺された家族のために、遺言は必須と思います。

(4) ところが遺言にも限界が

子供のいない夫婦や、再婚してそれぞれに子供がいる人など、遺言は「ある」と「ない」とでは全く異なります。
でも、それも限界があります。

それは、決められるのは自分の次まで、ということです。

2-9-04

お父さんが遺言で決められるのは、自分が亡くなったら誰に財産を引き継がせられるかです。
今回の事例では長男ですね。
その長男が亡くなったら誰に引き継がせるかは遺言では決めることができないのです。
例え書いたとしても、法律的に効果はありません。
「代々この土地は、〇〇家の長子が引き継ぐこと」
という定めは、戦前の家督相続があったときまでは可能でした。
しかし、戦後、民法が新しくなってからは、法律上有効な方法ではできなくなりました。

(5) 家族信託なら解決できる

ところが新しくできた制度の家族信託なら、これが簡単に解決できます。

2-9-05

家族信託では、その財産を持つことによる利益を誰がもらうかを指定します。
この利益をもらう人を「受益者」といいます。
例えば、

  • 人に貸している土地なら誰が地代をもらえるか
  • 自宅なら誰が住めるか
  • お金なら誰がそのお金を使えるか

ということですね。

全て、利益をもらう人(受益者)です。

この受益者を家族信託では何代にもわたって指定できるのです。

ですから、お父さんが先祖代々の土地を家族信託すれば、その土地を何代にも渡って誰が引き継ぐか指定ができます。

先祖代々の土地は、「創業200年」といった何代も受け継ぐ事業をやっている家なら
その事業に使っていることが多いと思います。
店舗や工場などの敷地ですね。
造り酒屋なら酒蔵の敷地もそうでしょう。
伝統が長く続き、後継者がいても、相続で財産トラブルになると事業が分裂してしまうことがあります。
ですから、相続はとても重要です。
このように、何代も続いている場合は、予め継ぐ人を決めておけるとトラブルもとても少なくなります。
ですから、「家督相続」は、代々続けるにはとてもいい制度だったと思います。

日本が戦争に負けてアメリカから法律が持ち込まれて、家督相続がなくなってしまいました。
ところが、平成19年に改正された法律で家族信託が使えるようになりました。

家族信託を使えば「家督相続」を復活できます。

このように、代々引き継ぐ人を決めておきたい財産がある場合は、
家族信託を使えば「家督相続」を実現できるようになりました。




家族信託 事例一覧に戻る