【相談事例11】

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私は会社を経営しています。
私の後継者は長男ですので、株は長男に相続させたいと思っています。
しかし、私には会社の株以外にめぼしい財産はなく、二男から遺留分を請求されたら、長男は遺留分を支払うことがとても難しいと思います。
もちろん株を少し渡すことも考えられますが、会社に関係ない人が株を持つのはできれば避けたいです。
遺留分対策もでき、株を一部渡すことも避けられるいい方法はないでしょうか?

(1) 遺留分とは

遺留分とは
遺留分とは

相談者から、遺言などで株やお金、不動産などの財産を長男に渡します。
そうすると、財産をもらえない二男は不公平と思い納得できないでしょう。

そこで、法律は、「オレにも少しくれ」という権利を認ました。
これが遺留分です。

遺留分の請求を受けると、長男はお金や相続した株など二男に渡さなければいけません。
お金があれば株は渡さなくて済みますが、お金がないときは大変です。

今回の事例では長男は株を相続しました。
株は売るつもりもないし、売れるわけでもないのに、帳簿上の財産価値だけは高くなっていることがあります。
数千万や数億になることも希ではありません。

そうすると、会社の株という、会社の権限が一部
会社をあまりよく思っていない二男に渡ることになり、
会社の経営に支障が出る場合もあります。

(2) 株とは何か?

こんな株ですがどんな意味があるのでしょうか?

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株には2つの機能があります。

1つは「人事権」など、経営する権限です。
株を持っている人が会社の人事権を握り、経営判断をします。
簡単に言うと「ハンコの権限」です。

もう1つは「利益をもらう権利」です。
配当や株を売ったときの売却代金をもらう権利です。
簡単に言うと「お金の権利」です。
株の財産的価値は、この「お金の権利」にあると言えます。

今回の事例では、長男が会社の後継者でした。
ですから長男が人事権を握る必要が絶対にあります。
もし長男が人事権を持っていなかったら、長男は後継者として社長になっても、いつでもクビにされる可能性があり、会社の経営が不安定になります。
ですから、後継者に株を持たせることはとても重要なのです。

(3) 二男に株を渡すと大変

二男が遺留分を請求すると言うことは、兄弟間でケンカが起こるようなものです。
遺留分の請求があると、残念ながら関係の修復はかなり難しいです。
「一生、二度と顔を合わせたくない」となるでしょう。

遺留分の請求を受け、お金で解決できれば、まだましです。
お金がなければ、二男に株を一部(事例では1/8)渡さざるを得ません。
株には人事権があります。
仲が悪くなった二人が、それぞれ人事権を持つのです。
これでは会社の経営が上手くいくはずがありません。

ですから、会社の代替わりにおいては、遺留分に対しては十分に注意をする必要があります。

(4) 家族信託を使った対処法

信託の大きな特徴に「ハンコの権限」と「お金の権利」を分けられる、というものがあります。

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この「お金の権利」を信託の世界では「受益権」といいます。

株を長男に信託すると、人事権などの「ハンコの権限」は長男に渡ります。
配当をもらう権利などの「お金の権利」(=受益権)を後継者だけでなく、二男にも渡せばいいのです。

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そうすれば、後継者である長男が人事権を完全に掌握できます。
二男にも遺留分に対応するくらいの「お金の権利」(=受益権)を渡しているので、二男はこれ以上、遺留分の請求はできません。
長男はお金を用意する必要もなく、人事権も完全に握れます。
二男には「お金の権利」を一部渡しているので、今後は配当を出せばいいのです。

このように、家族信託を用いれば、遺留分に対応した事業承継が可能になります。

(5) 遺留分の対応 その他の事例

信託を使った遺留分の対応は、他にも応用できます。

不動産を持っているけど、現金があまりない場合です。

不動産を長女に相続させたい。
しかし長男からの遺留分に対応したいケースです。
不動産が共有になると、不動産を人に貸したり、担保に入れたりなどするとき、共有者全員の合意が必要です。
共有者の意思疎通ができていればいいですが、そうでないと何もできなくなります。

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家族信託なら対応が可能です。
不動産を長女に信託します。
そうすれば「ハンコの権限」は長女に移ります。
不動産のハンコの権限は、その不動産を管理する権限です

そして、「お金の権利」である受益権を一部長男にも渡します。
不動産の「お金の権利」は貸し地なら賃料をもらえる権利ですし、自宅なら住める権利です。

こうすることにより、不動産の共有を防ぐことができ、長女は多額の現金を用意する必要もありません。
また、遺留分のトラブルも防ぐことができるでしょうから、姉弟間の関係も壊れることもないでしょう。

このように、家族信託を使えば遺留分にも対応することができます。




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