【相談事例8】

2-8-01

私は70代男性です。
自宅の他に、アパートと地元の企業に貸している土地を持っています。

私の親戚のことですが、その親戚が亡くなったあと、それまで仲の良かった子供たちが相続で争っているのを目の当たりにしてきました。
私も子供が二人います。
今は仲がいいのですが、私が亡くなった後はどうなるかわからないので、私の財産は今のうちに生前贈与しておきたいです。
アパートは長女に、貸地は長男と考えています。
しかし、生前贈与すると多額の贈与税がかかってしまいます。

何か良い方法はないでしょうか?

(1) 遺言の難点

遺言(遺書ではないですよ)で、アパートは長女に、貸地は長男に相続させると指定しておけば、そのように実現される可能性は高いです。

なぜ、「可能性が高い」と表現したのか?

遺言には主に3つの難点があります。

遺言の難点 一つ目

一つ目の難点は自分が亡くなってからでないと効力が生じないことです。
目の黒いうちに財産を渡せないのです。

遺言が見られるときは当の本人は亡くなっています。
遺言書を開いたとたんに兄弟間でケンカになったケースもありました。
「親父がそんな遺言を書くわけがない」、
「この遺言では納得できない」
「おまえが書かせたんじゃないか」
などと争いが生ずることがあります。

遺言の難点 二つ目

二つ目の難点は、形式が整っていないと無効になる点です。

遺言の作成方法は法律に詳しく規定されています。
この方法を守ってないと無効になることがあります。
例えば、遺言の日付は最後までしっかり書かなければならず、「平成28年5月吉日」という書き方だと、遺言は無効になってしまいます。

遺言の難点 三つ目

三つ目の難点は、相続人全員
(今回の事例では、母、長女、長男の3名)
で話がまとまれば、遺言のとおりに財産を分けなくても、法律的に問題にならないことです。
つまり、せっかく書いてもそのように実現されない場合があるのです。

実際、遺言どおりに財産が分けられないことは、実務上、ときどきあります。

このように遺言には難点があります。
ですから、トラブルを防ぐためや、自分の希望どおりに財産を引き継いでもらうには、「目の黒いうちに渡すこと」が一番いい方法です。

つまり「生前贈与」です。

(2) かつては隠居できた

かつて日本にはとてもいい制度がありました。
「隠居」です。

「私はおまえに任せた」といって、隠居できました。
そうすると財産も後継者に移りました。
任せたと言った本人(ご隠居)はまだ元気ですから「生前贈与」です。
戦前の法律では、隠居すると財産が後継者に移りますが、税金がほとんどかかりませんでした。
例えば、現在の価値で3000万円の財産があったとしても、隠居(生前贈与)してかかる税金は数万円でした。

(3) 今は贈与税が障がい

しかし、今はとても高額な贈与税がかかります。
3000万円の財産を子供に生前贈与すると、1035万円!も贈与税がかかります。
これではとても生前贈与(隠居)できません。

一方で、遺産総額が3000万円なら、遺言で財産を亡くなってから渡すと相続税は0です。
ですから、現在の法律は生前贈与(隠居)がとても難しいのです。

国は「生前に渡さないで、亡くなってから渡してね」と言っているのです。

しかし、先に述べたように生前贈与は、

  • 子供たちの間でトラブルになりにくい
  • 自分の希望したとおりに渡せる

という特徴があります。

昔は、相続トラブルはあまり聞かなかったと思います。
しかし、今の制度になってから、相続トラブルは頻繁に起こるようになりました。

むしろ、今の制度は相続トラブルが起るしくみとも言えます。

(4) 家族信託なら解決できる

新しくできた「家族信託」なら、事実上の生前贈与(隠居)が可能です。

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アパートは長女に信託します。
貸地は長男に信託します。

こうすると、アパートの名義は長女に、貸地の名義は長男に換わります。

そして、アパートや貸地もそれぞれ子供たちが管理します。

ですから隠居のように「おまえに任せた」と言えるわけです。

一方で、賃料は家族信託の中で、お父さんが今後も受け取るようにします。

こうすることにより、贈与税は全くかかりません。

信託したお父さんが亡くなると

お父さんが亡くなると名義が子供たちに完全に移ります。

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つまり賃料については、アパートは長女が、貸地は長男が受け取れるようになります。

子供たちも、生前にお父さんから信託を受けたのですから、
「そんな信託はウソだ」と言うはずはありません。

なぜなら、信託契約書にはそれぞれ、長女も長男もハンコを押すからです。

このように、家族信託を使えば、生前に財産を自分の思ったように渡すことができます。
そして、自分が亡くなった後も、トラブルを未然に防ぐことができます。

まさに、「隠居」が実現できます。




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