【相談事例6】
私たち夫婦には、知的障がいがある子がいます。 私たちもそれなりの年齢になってきたので、将来、私たちが亡くなった時に備えて、この子にアパートやお金を相続させるような遺言を書こうと思います。 そうすれば、この子もお金の面で困ることはないと思います。 しかし、この子がアパートを相続しても管理はできないですし、多額のお金を相続しても、お金の出し入れなどをすることは難しいと思います。 何か良い方法はないでしょうか? |
動画で解説 家族信託
障がいがある子供 編
(1) 何もしないとどうなるか?
お父さんが亡くなった場合で考えましょう。
2つ問題がありそうです。
1つ目はお父さんの遺産を、遺された家族で相続する手続きの問題です。
相続人全員で財産の分け方を決めた「遺産分割協議書」に実印で押印する必要があるのですが、長男に知的障がいがあるので、この遺産分割協議書に押印できないと考えられます。
その場合、「代わりにハンコを押す人」として成年後見人を立てる必要があります。
成年後見人は家庭裁判所で選任してもらいますが、早くても1~2ヶ月はかかります。
この間は、亡くなったお父さんの預金は解約することができません。
問題の2つ目ですが、相続したアパートやお金の管理は長男ではできないことです。つ
まり誰かが管理しなければいけません。
相続手続きをするために成年後見人が選任されているでしょうが、成年後見人については、
- 財産の運用が、融通がきかなくなる
(本人のためにしか使えない) - 自宅の処分が難しくなる
- 家庭裁判所から誰が選任されるかわからない
- 第三者が選任された場合、継続して費用が発生
などの問題があります。
詳しくはこちらで解説しています。
遺産分割協議をするために、長男のために成年後見人を立てる必要があり、その後は、その成年後見人(誰がなるかわからない)が、一生、長男の財産を管理することになります。
(2) 遺言を書いていたらどうなるか?
この場合は、遺産分割協議は不要になります。
特に公正証書で遺言を作成しておけば、スムーズに口座の解約手続ができます。
また、お父さんの遺志どおりに財産を継がせることができます。
ですから相続手続きがスムーズに進むと考えられます。
一方で、相続手続きが終わってからは問題があります。
やはり長男は自分では財産を管理できません。
アパートの契約や、お金をおろしたり支払いをしたりすることが、自分では難しいです。
そうするとやはり成年後見人の選任が必要になります。
成年後見人を選任すると、アパートやお金などの財産の管理はしてもらえますが、前に述べたように硬直的な管理しかできなくなる問題は同じです。
また、障がいのある長男のお世話をしてもらった人(施設)がいても、その人に財産を残せるわけではありません。
長男が亡くなった後、長男をお世話してくれた人に財産を遺すには長男が遺言を書く必要があります。
しかし、長男の知的障がいの度合いによっては遺言が書くことはできません。
これでは、長男が亡くなった後、その人(施設)に財産を遺したくても遺すことができません。
(3) 家族信託なら解決できる
知的障がいのある長男の面倒を、長女がよく見てくれるなら、アパートとお金を長女に家族信託します。
そうすれば、信託されたアパートは長女が管理し、お金は長女が出し入れできます。
信託されたアパートの賃料があるので、長男が生活に困ることはありません。
お父さんが信託したアパートやお金を管理するために、家庭裁判所に成年後見人を選任してもらう必要もありません。
お父さんが亡くなられても、信託された財産は長女が管理していますので、信託された財産については相続手続きも不要になります。
このように、家族信託をしておけば、成年後見人を選任しなくても、長男が生活で困ることがなくなります。
しかも、長男は多額なお金を扱う必要もありません。面倒なアパートの管理(入居の契約や維持修繕、賃料の回収など)をする必要もありません。
(4) 長男が亡くなったら
長男は知的障がいがあるので、その度合いによっては、遺言は書けません。
ですから、お世話になった人や施設に財産を渡すことができません。
ところが、お父さんが家族信託をしておけば、長男が亡くなった後、お世話になった長女やその子供、施設などに財産を渡すようにすることもできます。
このとき、長男の遺言ももちろん不要です。
(5) 長男の普段の生活が心配
障がいのあるお子さんがいらっしゃる方からよく言われることがあります。
「この子の財産管理が何とかなることはわかりました。
しかしこの子の毎日の生活の面倒は誰が見てくれるのでしょう?」
在宅の場合は特に心配だと思います。
最近、このような障がいがある方や高齢者で生活のサポートが必要な方のために、
- 毎日の買い物
- ご飯の用意
- 病院の付き添い
- 急病など緊急時の対応
- 施設の入所の際の身元保証
などなど、このようなサービスを提供するNPOなどが出始めています。
「生活サポート」や「くらしサポート」などと言うことが多いようです。
財産管理は家族信託で。
普段の生活は生活サポートで。
そうすれば、障がいがあるお子さんがいらっしゃっても安心できるのではないかと思います。